by Yurika Oda
CANADA
私は2022年9月から十か月間、トビタテ留学JAPANの奨学金でカナダのYale secondary schoolに 通っていました。このレポートでは学校で気が付いたことを中心にカナダと日本との違いなどについ て書きたいと思います。
カナダの授業選択
学校は二学期制で1学期に履修するのは4教科だけです。そして毎日その4教科を受講します。高2 からの授業は、基本選択制で好きな教科を取る事ができます。英語や社会など、履修必須科目もあ りますが、それらの科目の中での数種類ある授業も選択制です。生徒それぞれが将来的に必要とし ている技術や、得意分野を伸ばす授業を取ることが出来ます。また次年度の授業選択段階で、卒業 後に大学進学する道と就職する道を進路として示し、そしてそれぞれに有利になるお勧めの授業を 示している事に少し驚きました。就職する道を選ぶ際にはどのような授業を取るべきなのかも分かり やすく紹介し、就職後に役に立つような授業もたくさん有ります。例えば金属加工や木材加工、私の 通っていた学校にはなかったですが、近くの学校には小型飛行機の操縦資格が取れる授業まで有るそうです。
成績
カナダではそれぞれの先生が授業の構成(小テストの頻度や期末テストの有無など)を決めるた め、成績の付き方は授業によってかなり変わります。しかし、どの授業でも課題やプロジェクトが一年 を通してたくさん有り、それらから成績が大旨つけらます。授業によっては単元ごとに小テストが有り それらも成績に大きく影響を及ぼします。そして、期末テストは成績の約20~30%ほどしか占めま せん。また、課題や小テストは採点されるとすぐにCheck My Progressというサイトに点数とパーセン テージがアップされ、それらの点数からその時点での暫定の成績が表示されます。
(これがそのサイトのスクリーンショットです。Term3:93.4%というのがこの時点での暫定の成績です。)
これにより、生徒はその時点の自分の成績を正確に知る事が出来、成績に問題があるようならば先 生に相談に行くなり、課題や勉強の仕方を変えるなりしてそれ以降の成績を改善するように努力す
ることが出来ます。その時点の成績をすぐに確認出来て、自分が順調にやっているのか、もっと頑張 らないといけないのか分かるのは成績がどうなるかわからない不安を解消してくれていました。ま
た、この成績は定期的に両親(私の場合ホストファミリー)に送られます。私はホストマザーに成績が悪かった課題があると、なぜダメだったのか、どのようにしたら改善できるか先生に聞いて来なさいと 言われました。実際に聞きに行ってみると自分の何が悪かったのか明確に理解できました。
授業の違い
カナダの授業はどの授業も学んだことをどう表現するかということと自己表現に重きを置いていると 強く感じました。
例えば、日本の国語の授業は文章をどのように読解するかに重きを置いていますが、カナダの国語の授業では、説明文や論説文の書き方をまず教えます。
例えば、どのように引用文を文中いれるか、文章の構成はそれぞれ説明文や論説文でどのように違うかなどを教えます。その後、授業中に多くの時間を使って、実際に自分の意見についてそれらの形式で文章を書く事がほとんどでした。また小説や詩などを学ぶ際はそれらを自分で読んでから、小説からのイメージ、イン スピレーションで自分で詩を書いたり、詩から読み取ったメインテーマを写真と引用文だけで伝えたり といった課題が出ました。
他にもテストの中でも、違いがみられると思いました。例えば生物のテスト でプロテイン生成の問題が出てきた際に、日本の場合はその過程で使われる酵素や、どこで行われ ているか問う問題が多い一方で、カナダのテストでは「プロテイン生成の過程を説明せよ」などといっ た(生徒に丸投げじみた)問題が出ます。先生はキーワードや重要な内容がいくつ入っているかで採点をするので、用語を暗記しなければいけないことは大前提なのですが、その上で自分がどれだけ理解できているのか、そしてそれを説明出来るのかが求められます。
また、カナダの授業ではクリエイティブ性を求められることが多くあります。例えば生物の授業では バクテリアや軟体生物について先生から与えられたトピックスについて詳しく調べ、レポートにまとめ るという課題が良く出ます。そして課題提出だけでは無く、その後その課題資料の中で、重要となるポイント部分を選択し、クラスでプレゼンをしないといけません。その際に先生からはただのスライド ではなく何かクリエイティブな方法でプレゼンしなければならない、と言われます。実際に生徒によっては、絵本のような形でまとめたり、模型を作ったり、パンフレットを作ったりすることによって内容をまとめたりしていました。他にも英語の授業では一冊の小説の要約を何かしらの方法で視覚的に伝えるという課題があり、写真をたくさん貼り付けてコラージュしたり、絵を描いてグラフィックノベルにし て課題を作っていました。私は『Night』というホロコーストについての小説を読み、それをグラフィックノベルにして要約しました。これは、内容をよく理解し、自分なりの表現に落とし込めていると、高評価を貰えました。
カナダの授業の面白い文化
カナダでは暗記や計算力より、問題に応えられることを求めるため、先生や授業によってはテスト 前にあらかじめ授業内容をメモした紙などを持ち込み、それを見ながらテストを解くことを許されてい ました。このようなテストはOpen bookと呼ばれ生徒は先生に、「このテストはOpen bookですか?」 とよく気にしていました。とても大事ですよね。Open bookかClose bookかでは勉強量が全然違いま す。また、数学のテストではテストの際に白板に先生が公式を書いてくれていたり、計算機の使用を 許されたりしていました。むしろ、一部の問題では計算機が無いと解けない問題などもありました。
また、カナダの授業は1コマが長く、天気がいい日は時々みんなで校庭に散歩に行きます。とても いい気分転換になるので私はこの文化が好きです。
カナダの図書館
休日はよく図書館に行って、勉強をしていました。カナダの図書館は、日本と同じように、とても静かで綺麗です。日本と違うのは飲み物の持ち込みが自由また、である事です。コロナで一時期は禁 止されていましたが、それ以外の時は多くの人が近くのコーヒーショップで買ったコーヒーやフラペチーノを飲んでいました。また、なによりも驚いたのは外国語の書籍がとても充実している事です。日 本語、ドイツ語、フランス語、中国語など様々な言語の書籍が置いてあり、それぞれの言語において 子供コーナーには本棚一段分ほどの絵本が、一般向けのコーナーには本棚二段分の一般書籍(日 本語のコーナーにはラプラスの魔女や東野圭吾さんの本など、日本の書店でよく見るような本)と本 棚一段分の映画が有りました。移民が多い国だから各国籍の人にとって母国の本という事でもあり、 カナダでは他言語学習が当たり前である、という事なのかもしれないと思いましたが、改めてカナダの多様性を感じた一面でした。
(これらの写真は日本語の小説と映画が置かれている棚です。他の言語に対しても同じくらいの分量 の書籍などが置かれてます。)
余談ですが、この図書館には丸々本棚2つ分ほど漫画が置いてあり、そのほとんどが日本の漫画 を翻訳したものでした。日本のアニメ&漫画のポップカルチャーが人気とは聞いていましたがここまで 人気なのですね。ちなみに本屋に行って漫画コーナーを見てみても、そこでもほとんどが日本の漫画でした。実際に読んでみると、すべてのセリフが大文字で書かれており、英語学習者の私たちには 少し読みにくいですが、とても面白いと思います。
また、図書カードは留学生でも作ることが出来、私も作ってみました。図書カードを作ると本を借りら れるほかにDVDやCD、電子書籍などを借りることが出来ます。私は日本のジブリ映画を借りて友達 やホストマザーと見ました。英語吹替もあったので英語の勉強にもなったと思います。また、図書カー ドを作ると図書館のみパソコンを使うことが出来、そのパソコンからコピー機にデータを送信すること で印刷もできます。私は授業で必要なものや、PCR検査用紙などの生活に必要なここものの印刷も 全てここでやっていました。図書館は留学生の強い味方です。
カナダのバス
私の住んでいたAbbotsfordというところでは電車は走っておらず、車以外の交通手段はバスのみ となります。バスで初めに困ったことは、バスの中に次のバス停を表示するパネルもなければ、次の バス停の名前を知らせる放送もないことです。その為、バス停の名前を知っていてもそのバス停に降りられないという事をバスに乗ってから初めて知りました。このような時の正攻法はあらかじめ運転手さんに降りたいバス停を伝えて止めてもらう事らしいですね。それを知らなかった当時の私は必 死にグーグルマップの位置情報とバス停の位置を照らし合わせてバスの呼び鈴を押していました。 その後半年ほどして、パネルが設置され、放送も流れるようになりましたが、私はバス停の位置を覚 えて景色を見て停車の呼び鈴を押せるようになっていた後でしたので、何とも言えない気持ちになり ました。また、呼び鈴は日本にあるようなボタン式のものと紐を引っ張るものの二通りが有りました。
またバスの中ではユニバーサルデザインが徹底されているなと感じられました。例えば、バスの中の 座席の半分はCourtesy accessible seating という席です。この席は座席を上げたり下げたりが自由 にできます。その為、誰かベビーカーやカートを持った人が乗車した際は、Courtesy accessible seatingに座っている何人かがその席を立って、座席を上げて席を譲っています。そうすることでその 空いたスペースにベビーカーなどを置きその人はそのすぐ隣の席に座ることが出来ます。
また、バスの前には自転車を置く場所が有り、自転車に乗っている人はそこに自転車を固定してか らバスに乗車できる為、環境に良い自転車をバスと併用出来て、より活用しやすくなっています。
カナダで食べた美味しい料理、美味しくないもの
サモサ…ネイティブカナディアン(先住民族)の伝統料理でコロッケの中身みたいなものを生地で包んであげたものです。スイートチリソースのようなものを付けて食べます。学校でも時々無料で配って います。このようにカナダでは日常的に伝統料理を出したり、伝統的な装飾を飾ったりと先住民の文 化を尊重しているように感じました。
ラッキー…私のホストファミリーはユダヤ教信者だったため、ユダヤ教の伝統料理を一緒に作りまし た。ラッキーはホヌカという行事の中で食べるもので、小麦粉、卵、根菜類などからできた生地を焼い てサワークリームと共に食べます。ホヌカとは11月頃に行う、8日間ロウソクを点けて祝う行事です。 ルートビール…A&Wというハンバーガーチェーン店で出している飲み物です。ビールと名前に有りますがアルコールは入っておらず見た目はコーラのような飲み物です。この飲み物は人によって好き 嫌いが分かれるようです。個人的には湿布のようなにおいがして、味も独特で、もう二度と飲みたくはないです。
カナダでの寿司…握り寿司はメニューにはあるのですがあまり食べている所を見ませんでした。その 代わりに巻きずしがよく食べられていて、具はキュウリやアボカドなど野菜が多かったです。巻き寿司部分に関しては、基本的には日本のものとクオリティは同じでした。一部の寿司で米が機械で力いっぱい圧縮されて米の密度が3倍くらいになったような寿司は美味しくはないですが面白かったで す。日本においてイタリア料理店や中華料理店が多くあるのと同じくらいカナダには寿司屋が多くあって驚きました。ちなみになぜか寿司屋は韓国人がオーナーをやっていることが多いそうです。韓 国人の方が経営が上手いのでしょうか?少し不思議な気がしました。
カナダの避難訓練
私がカナダの学校に通い始めてすぐの頃、立て続けに数回ずつ様々な避難訓練をしました。火災の ためのもの、地震のためのもの、ロックダウンのためのものの三種類です。ロックダウンとは、凶器を 持った人が学校に侵入したり、何らかの原因で生徒が危険にされていたりする際に教室に鍵を閉め て静かに待機するというものです。その後、一つだけ役に立つ機会がやってきてしまいました。11月 のある日、突然放送が鳴り、ロックダウンをしろと言われました。初めは訓練か誤作動かと思っていたのですが、何十分たっても解除されることは無く、本当に何かあったのかと恐怖を感じました。途 中、私たちが立て篭って息を潜めている教室の外側から1人の男が「ポリス、ポリス」と言いながらド ンドンとドアを叩いてきました。しかし、警察はスペアの鍵を持っており、警察が教室を開放する際は その鍵であけるので、それまではロックダウンが解除されることは無く外には出て行ってはいけない と訓練されていましたので、すべてを無視して息を潜めて警察が来るのをひたすら待ち続けていまし た。結局警察が来て安全確認をして、ドアが開けられたのは何時間も経った後でした。何が起きてい たのかは教室で待機している間は知る事が出来ず、後から聞くとナイフをもった男性が学校に侵入してという事でした。幸い、死傷者は一人も出ずに終わりましたが、これは訓練を数回行っていた為、 どのように動くべきかあらかじめよく理解できていたことが大きかったと思います。全員が素早く落ち 着いて教室に立てこもり、警察の到着を待機することができていました。また、訓練の際に先生が「万が一不審者が教室に侵入してきたら、先生が全力を尽くして食い止める」と言ってくれていて、今 回のロックダウンの際も生徒が集まっている場所よりドアに近い場所にしゃがんで生徒を守ろうとてくれていました。そのお陰でとてつもない恐怖の中、少し安心出来ました。この事件を通して、今回 はナイフでしたが、特にアメリカで頻発している学校内銃連発事件等がどんな恐ろしい事か、リアル な体験として分かった気がしました。また、訓練の大切さも身に染みて実感しました。
カナダでの活動
私は部活としては、グローバルクラブと合唱部に入っていました。
グローバルクラブは、いろいろな国出身の生徒が集まり文化の共有をしたり、交流をしたりするクラ ブです。そこで私は日本文化の紹介の1つとして、折り紙技術を応用したミウラ折というものを紹介し ました。これは宇宙で太陽光パネルの開閉を省エネで行う為に開発された日本が誇る技術の1つで す。この技術の紹介と共に、日本の伝統的な折り紙も披露し、実際に一緒に作って貰ったりしまし た。不要紙を再利用出来る折り紙のエコ箱を紹介しました。
合唱部ですが、こちらは一年間その部活をやる事で音楽の単位がもらえるという面白い部活でした。 歌はフランス語、スペイン語、英語など様々な言語の歌を歌いました。コンサートも半年に3回ほどあ り、みんなでコンサートに向けて練習します。学校以外のコンサート会場でも歌う機会もありました。
カナダで出会った美術表現
美術の授業をとった事で初めて、一つの作品に時間をかけて集中して仕上げるという事を体験しま した。一部の作品は先生に選ばれて、エントランスや図書室に飾ってもらえました。
(↓左の作品は課題はシュルレアリスムで、現実にあるものを組み合わせてシュールな世界を描くという ものでした。)
(↓右の作品の課題は有名絵画と自画像を組み合わせるというものでした。この作品の題名は Napoleon and Meです。)
ホームステイ
私のホームステイ先は、ホストマザーと彼女の犬だけという家庭でした。ホストマザーは本当の家
族のように私を気にかけ、落ち込んでいるときは話を聞いて、解決する為のアドバイスをくれました。 そして、家事の全く出来ない私に根気強く料理を教え、セーターなどの特殊な洋服の洗濯の仕方などを教えてくれました。また上記で書いた通り、彼女はユダヤ教信者であるため、ユダヤ教の様々な 文化を紹介し、行事に参加させてくれました。例えば、ユダヤ教は金曜の日没から土曜の日没までは安息日(Shabbat)と言って次の週にまた頑張る為に仕事を完全に入れず、家で心身ともに休むというしきたりがあります。安息日(Shabbat)の前後に行う儀式にも毎週参加させてくれました。私も聖書の1ページほど毎週朗読させてもらいました。また、彼女は私が困っている時は、神に祈れば助け てくれると、神はあなたを想っていると教えてくれました。人生で初めて宗教を心から信じている方の 話を聞きとても新鮮でした。そして、彼女の宗教観についての話を聞く中で、自分の宗教観について 見直すきっかけにもなりました。私は彼女のように特定の宗教を信じている訳ではないので明確な宗 教観はありません。それでも生まれてから今まで周りから影響される中で潜在的に神道的な、仏教的な価値観がこの身に染み込んで、私自身の価値観の一部になっていたのだなと改めて感じまし た。例えば、ホストマザーがどんなに神が全ての大元だと話してくれても私にはあんまり実感は湧か ず、全てのものを通して神一人に感謝するよりは、それぞれのものに神が宿っていてそれぞれに感謝する方が私にはしっくりくるような気がしました。このしっくりくるという感覚こそが、私の宗教観でも あるのだと改めて認識しました。一方でそこまでホストマザーが信じる唯一神としての神というものに ついても、もっと深く知りたいと思うようになりました。
最後に
この10か月間、良い先生、ホストマザー、友達に恵まれて過ごしてくることが出来ました。その事に とても感謝しています。
ここでの経験は日本とは全く異なる面も多々あり、大変な事もありましたが、毎日がとても新鮮で充実していて、生きている!という事を強く実感出来る日々でもありました。